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2018年3月号(609号) 朝は改札機の音ではじまる
2018-03-01
2018年3月号(609号)
 
朝は改札機の音ではじまる

~現代百人一首2018~
 
理事長 吉野 恭治

 
 
 東洋大学が創立100年の記念行事として実施したのが「現代学生百人一首」だった。100年に関連した記念行事だったが、今年31回になるので、すでに学校創立から130年を超えている。今年は49259首の応募があった。都道府県別には東京都が最多で4084首、続いて神奈川の4414首、アメリカからも333首の応募があったが、わが山陰は鳥取、島根とも今年も0で短歌に背を向けたかのような状況である。
 ともすれば希薄になった家族関係、そう言われるが読み終えるとひたひたと押し寄せるような感動のある歌も今年は目立った。家族はやはり身近な共同体であろうか。
家族を歌った歌を紹介する。49000首から選ばれた家族の歌をしっかりと読んで欲しい。
 
決まったよ喜ぶ私と温度差が
  寂しさが増す母のほほえみ
山形県立酒田光陵高校3年 田中 日菜
手強いぞ言ったら引かぬ更年期
  言われて聞かぬ私思春期
         芝浦工業大学柏高校1年 河邊 仁紀
お見舞いの我が子にみせるその笑顔
  いつか看護の私に向けて
香取郡市医師会附属佐原准看護学校1年 篠塚 真穂
汗流し家族のために家事こなす
  働く祖母は私のヒーロー
東京都立大森高校3年 深谷 まの
「意地っぱり」母が笑ってそう言った
  私も笑う「親ゆずりだよ」
貞静学園高校1年 小野塚琴弓
土砂災害祖父母を亡し哀しんだ
  あれから家族絆は強し
広島県立総合技術高校1年 末永 星花
 
これからの3首はこうした素材や心情でも、どこかでしみじみと家族に注がれる優しさを教えてくれる。歌の中にあるアカショウビンとは火の鳥ともいう燃えるような色のカワセミのことを言う。故郷の実家で聞く音色だ。
 
将棋さす祖父とアニキの背中には
  プロとは違うやさしい沈黙
伊那西高校3年 福澤 愛実
かすみ草込めた気持ちは照れかくし
  母への手紙にそっと押し花
        山口県立岩国商業高校2年 竜口ひかる
縁側でアカショウビンの音聞きつ
  祖父の隣りで寝たあの夏よ
          鹿児島県立大島高校年 水野あかり
 
 深窓の令嬢などという言葉が生きていた時代の恋と、今の時代の感覚に塗り込められた恋とは、目線も呼吸もまるで違う。しかし何倍も心地よい若さを感じさせる。
 
泣く君の力になりたいだけなのに、
  どうしてどんどん遠くへ行くの?
芝浦工業大学柏中学校3年 阿部紗也香
すれ違うその瞬間さえ意識して
  気にしないふり前髪いじる
         昭和学院秀英中学校2年 山本 花奈
図書室で出合った本の貸し出し欄、
  十年前の君とも出逢う
         東京都立府中高校2年 加藤 楓花
 
新しい言葉と思われがちだが、歴女とは「歴史が好きな女の子」というほどの意味で軽く使う。次に紹介する2つの歌は歴女も目線も楽しく使われている。
 
身長をやたら気にする君だけど
  おんなじ目線が私は嬉しい
        千葉商科大学付属高校2年 里  咲子
大人しい君が歴女と知ってから
   好きになってる織田信長も
         東京学館新潟高校1年  本間  凪
 
 学生時代、どう思い返しても2度とあの素晴らしい時代には戻れない。今まさにそうした時代に首までつかっている世代が、若い感覚で自分や学校生活を詠む。それを読むだけで、せめて想いだけでもあの頃に戻りたい。
 
「次期部長」言われたときのしょうげきよ
  空前絶後の夏休みかな
麗澤中学校2年 大竹 風音
合宿所せみの鳴き声聞きながら
  体休める至福の時間
          専修大学附属高校3年 角一 峰昭
Jアラート鳴った朝でも教室で
  あくびしている僕らの未来
          東京学館新潟高校1年 野上  凌
数Ⅰの問題解く手が動かない
  コップの氷カランと響く
           光ヶ丘女子高校1年 近田 晴菜
先輩と呼ばれて走る緊張感
  春光そそぐ体育館で
佐世保市立清水中学校2年 田川 千晴
寮生活一歩歩けば友の部屋
  喜び悲しみ持ち込みOK
慶應義塾ニューヨーク学院(高等部)  12年  福島安也奈
 
私が好きな学校生活の歌2首、うまいなぁとつくづく思う。若い感性は着眼点も驚くほどに若いのだ。
 
ミサイルが日本を通過しましたと
  今日の私のモーニングコール
        星美学園中学校3年 岩田  花
いとをかし平成女子はインスタに
  ほうじ茶キャラメルフラペチーノ
         和光高等学校3年 長野 天音
 
 若者たちは何を考えて生きているのだろうか。そうした「若者のいま」を読み解く。その繊細な視点に唸るような驚きもある。湧き上がる感動のようなものもある。
 
「おっはー」と台本無しの人生を
  笑顔で歩む僕を演じる
      岩手県立盛岡第二高校2年 林  陽帆
この時代生きた心地がしないのだ
  なにをするにも指先ひとつ
         神奈川大学附属高校1年 中村 優太
 
改札機を通る時「ピッ」となる音で、自分もリセットされるというさわやかな朝の感慨、そして今や電車の中は全員スマホっという光景で、本を読む人のすばらしさ。
 
今年はこの2作を自分流の最高作とするべきか。
 
 
定期券ピッと鳴ったら始まるよ
  昨日と違う新しい日が
      ノートルダム清心中学校2年 福田陽向美
電車内本を立ち読みする人が
  いるとなんだかほっとするんだ
        中央大学附属横浜高校2年 小笠原 咲
 
 
 
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