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2018年2月号(608号) 5万ボルト・全滅するパソコン
2018-02-01
2018年2月号(608号)
 
5万ボルト・全滅するパソコン
~日本海沿岸の憂うつ~
 
理事長 吉野 恭治
 
 

 シェルターとはなにかご存知だろうか。避難所のことである。以前はおもに地下室を指したと思うが、最近では庭先に簡易に組み立てて作る屋外設置型のものから、現在は住宅内の不要になった一室を特殊な素材で囲って作る屋内簡易設置のものまで市販されている。目的は戦時下の攻撃防御とか、核攻撃の防御、または気象異変対策など目的によりさまざまにある。

 第2次世界大戦の折、フィンランドではソ連からの爆撃を受けた時、死者が非常に少なかった。戦後そのことについてさまざまに理由が述べられたが決定的なものはこれだと言われている。それはシェルターの多さであるということだ。小さな民家にもシェルターがあり、現在でも首都ヘルシンキの昼間人口80万人を十分に収容できるという。最近の日本からは羨ましいと言わざるを得ない。

 それと最近の犯罪では防犯カメラに、犯人検挙の大きなポイントが写されている場合が多い。日本にこんなに防犯カメラが設置されているのかと思うことがある。しかしカメラの設置数ではイギリスに遠く及ばない。イギリスには600万台のカメラが設置され、むしろ最近では設置場所が飽和状態になってきているとさえいう。駅の改札やホーム、赤い二階建てバスの車内、学校の校門など設置数もすごい。1台のバスに5台のカメラが取り付けられているという。ことに首都ローマには200万台を超える防犯カメラが既設され、カメラ1台あたりに市民4名に近いほぼ完璧の体制にすでになっている。2005年のロンドン同時多発テロ以来、その対策強化は著しい。その一例をあげてみよう。

 バッキンガム宮殿は女王の居城だが、敷地は1万坪、部屋数は775室、浴室だけでも78室もある。この宮殿はロンドン観光の中心であり、観光客も極めて多い。付近には緑に彩られた公園が続き、大英帝国の昔日の栄光を思わせる。こうしたところはどう警備されているか。実はバッキンガム宮殿の周辺には1000台を超える防犯カメラがすでに設置されている。宮殿に近いどのような路地を通ろうとも、カメラに写ることなく宮殿に近づくことは何人も困難と言われている。すごいと思う。

 昨年末、恒例の「今年の漢字」には「北」が選ばれた。もとより「北朝鮮」を意識しての決定につながったと思う。北朝鮮は正しくは「朝鮮民主主義人民共和国」という。あれが「民主主義共和国」なのかといまさら言葉自体の意味を考えてしまう。その北朝鮮と山陰の各日本海沿岸の街々とはきわめて近距離である。米子から東京までは700キロを少し上回る程度である。平壌から米子までは800キロはない。飛行機で米子や松江から1時間ほどの羽田と、平壌までとはほぼ同じ時間だ。考えてみれば札幌より平壌の方がはるかに近い。自衛隊の飛行場を有する米子の方が地理的な意味合いから深刻な事態にあると言っていいだろう。アメリカでの発表によれば「もしアメリカと日本で核爆発があれば、それぞれ死者は200万人を超えるだろう」ということであった。それならどうすればいいのか、そのことについては世界中に答えを出せる人はいない。ひたすらに「脅迫」のやり合いだけで、双方の脅迫のエスカレートに頼るばかりだ。

 内閣官房・総務省が発表した核攻撃の際の一般国民への避難方法はこんなものだ。家に入って窓の少ない部屋を選び、窓やドアに目張りをして、「自分でにわかシェルターをつくれ」ということだ。日本ほど核対策の設備の遅れている国はないだろう。全人口を100とすると、国民を収容できるシェルターはどれくらいあるのか。スイスやイスラエルは100%、アメリカは82%、イギリスでは67%。そしてわが日本は0・02%。それだって山陰にはないだろう。私たちは「核の悲惨」を世界に訴える責任があろう。しかし「核から身を守る」ことも真剣に考えるべきではないか。それとも「核弾頭が落ちてきたらみな死ぬしかないね」と笑い飛ばす勇気を持つべきか。総理を誰がやろうと、何年政権を握ろうと、新党の代表が誰になろうと、国民の安全をこうした視点で考えてくれることがない限り、国民は危険の日々に放置されたままである。

 つい1時間の飛行距離の彼方に、核開発に成功して、ことあるごとに核攻撃を口にする国がある。日本でいちばんその国に近い地方に住むものは、いくら何でもじっくりと対策や方策を考え、準備すべきではないか。

 北朝鮮の核実験の時期が次はいつかと模索されている。

そこにひとつの新しい攻撃の方法が加わって、多くの国を狼狽させている。その新しい攻撃法とは「電磁パルス」と言われるものだ。多大の投資なくして、相手国を完全に叩きのめすことができるので、「貧者の兵器」とも言われている。昨年9月に北朝鮮はすでに「電磁パルス」を完成したという報告を流し、世界中はなす術のない対策にこれから迫られることになる。

 電磁パルスについてすこし知っておきたい。上空30キロから400キロという超高度で核爆発を起こすと、その際生じるガンマ線が、窒素や酸素と衝突して強力な電力が発生して地上を襲う。その規模はヒロシマ程度の爆発でも日本全土を一瞬に襲う。超高空で核爆発を起こしているので、その熱線や爆風は地上には全く届かない。つまりこのことによるヒロシマのような惨禍はおこらない。しかし送電線などを伝わって電磁パルスが襲ってくると、5万ボルトもの高圧電流が流れ、すべてのパソコンは瞬時に破壊される。当然だが日本全土が同時に大停電を起こす。映像の送信、病院の手術、水道からの送水、交通手段の全面的な停止、金融機関の運営の停止など計り知れない被害をもたらす。韓国の放送では「その場合どの国でも石器時代に戻る」とさえ伝えている。家庭でいえば水道が止まり、冷蔵庫が止まる。水洗トイレは使用不能になり、スマホも固定電話も停止する。

 もし日本がやられれば、世界経済も瞬時に崩壊するほどの被害が襲う。それでいながら見た目には、市街のどの建物も一切崩壊しないし、火災も起こらない。しかし電磁パルスにひとたび襲われると、津波のように大電流が全土を覆い、航空機すら飛行中に操縦不能に陥ると予想されている。もしニューヨークを襲えば、ワシントンもこめてアメリカ東部は全滅する。人は死なない。しかし1週間の食料品の保存があっても、工夫してせいぜい3週間ではないか。すると飢餓のために死者は何百万にも達する。一度発生した電磁パルスの消滅には数年はかかり、その復旧には数百兆円の費用がかかるという。無血の戦争である。懐中電灯の常備、井戸の必要性、自転車が貴重な手段だとか科学者は呼びかける。  

 日本には社会をあげての対策は全く行われていない。日本海をながめ、水平線の1時間の向こうに、日本全土の生死を担う国が息づく実情を、深く静かに考えたい。
 
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